Interviewed by Salam Unagami 1

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Interviewed by Salam Unagami 1

玉置浩二+青田典子の鮮烈ジャケも記憶に新しいTV Bros創刊600号にて掲載された、サラーム海上氏によるインタビュー。誌面の都合で掲載出来なかったその全文フル・バージョンを、氏の御好意により当BLOGにて3回に分けて掲載します。
part1「大手でやらなくて良かった」
~新作はどこからどう聞いても井上薫の作品だとわかる最新型のテック・ハウスになっている。前作「ダンサー」以来だから5年ぶりと随分間が空いたね。
「その間はギタリスト、小島大介とのオーロラ・アコースティックでライヴ活動をしたり、今作にも参加しているサックス奏者の藤枝伸介とFusikでミニアルバムを出したり、それにMIX CDやコンピを出したり、DJはいつも続けていたから、自分ではそんなに空いた感じはしないんだけど」
~大手レコード会社からリリースすると聞いていたけど、最終的には自分のレーベルで出したんだね。
「2008年頃、某社のディレクターと会う機会があって、新作をやらない?と聞いたら、やりましょう!という事になって、少ないながらも予算を割いてくれてスタートしたんだ。クラブミュージックは90年代末にものすごいバブル期があったわけで、それが2000年代後半の音楽産業の転換期に音を立てて崩れていく中で、今更メジャーでやるメリットがあるのかわからなかったけれど、ただ、レコード会社というしっかりした組織から作品を出す経験はこれが最後になるかもしれないし、その中で最後っ屁(笑)みたいのが出来れば良いと思っていたんだ」
~でも、今やクラブミュージックでメジャーからリリースしている人って石野卓球さんを除いて、後はJポップのお姉ちゃん歌手をフィーチャリングした乙女系ハウスの人くらいでしょう。真っ当なクラブミュージックを真っ当な形ではメジャーからは出せないし、出す意味もないでしょう。
「何が真っ当かわからないけどね。オレの担当ディレクターもクラブミュージックが好きな人間だし、自分にとってリアリティのある音楽を手がけたいという気持ちが残っていて、だから売上げの目標を無理矢理立ててまで、オレの作品にこだわってくれたんだろうけど。そんな売上げなんて絶対に立たない時代なのに。それで完成したにも関わらず、発売日がどんどん延期になっていって」
~去年の夏くらいには完成したと聞いていたけど。
「そう。去年の7月の奄美皆既日食音楽祭の時にはあらかた出来上がっていた。その後、ある時から担当ディレクターに連絡が取れなくなり、半月くらい膠着状態になった。そこで、どうしようかと。もう出来上がっているし。仕方ないので自分達でやろうかという話になって。インディーズの大手に持って行けばと人からアドバイスをもらったりもしたけれど、流通会社を使って個人レーベルで出すことにした。CDの売上げ枚数が個人でも流通業者を通じてハンドリング出来るくらいの数にまで減っている時代だから。結果、ある意味非常にいい経験になったわけだけど、メジャーでやらなくて本当に良かった」
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~5000枚でオリコンの週間シングルベスト10に入る時代。そんな売上げじゃ制作コストは払えないし、もはや都心の一等地に会社を構えている意味がなくなってしまった。同時にアーティスト個人が自分のレーベルを持って、自宅に在庫を抱えて、CDが詰まった段ボール箱が数十箱くらい積み上がってるのは当然になった。
「そうそう。そういうレベルでも、CDがそれなりに売れて、作り手に還元されるのなら、汲々とする必要はない。ただ、CDを買うという行為が若者にとって日常的ではなくなっている。地方に行って色んな人に会ったり、話を聞いたりしていると如実にわかるね。東京はまだモノにあふれている。地方のクラブにCDを持って行って、DJの前後に手売りをしていると、家にCDプレイヤーがないとか、CD自体を買ったことがないとか、誰かが一枚買ってそれをコピーしてもらうとか、そんな話ばかり聞く。クラブはお酒の現場なので、「今買ってくれたら、一杯お酒をおごるから、買って!」(笑)と言うと、「私はプレイヤーを持っていないけど、父が持っているので記念に買います~!」とか、CDがまるで絵ハガキのようなものになっている。それに地方にはCDを売っているお店もどんどんなくなってきているし」
~最近オーディオを買い換えたという話を聞いたことないもんね。iphoneやipodを買う人、ヘッドフォンを買い換える人はいるけど。思うに、何かを回転させて音楽を聞くという時代が終わったんだよ。蝋管レコードから始まって、SP、LP、CD、MD、何かのメディアを回転させて音楽を楽しむ一世紀が終わり、ipod、youtubeのような物理的な回転を伴わないメディアによる音楽の聴き方に変わった。レコードだったらターンテーブルに盤を置いて、針を降ろして、回転しているのを実感しながら聞く。そこに何かのありがたみみたいなものを感じてたのかもしれない。プレイヤーの前で正座すると、回転しているレコードに向かって手を合わせて拝みたくなるような(笑)。
「オレもDJをこれまでのレコードやCDJでのプレイからコンピューターのプレイに移行しようとしてるけど。オレはレコード文化で育って、レコードが回転して音が出るということが刻み込まれているから。やはり何かが回っていないと実感がない。だから完全にPCに移行するのは二の足を踏んでしまうんだ。それを周りの人間に言うと、ハードディスクも回転してますよと言われた(笑)。
 しかし、その回転メディアだって20世紀初頭に生まれて、100年間続いてきただけで、本来の音楽にはそんな形すらなかった。回転しているものを拝みたくなるというコレクター文化が終焉しつつあるのは、もしかしたら健全なのかもしれない。ただ、そこでモノとしてのレコードを収集することや、ジャケットアートと内容を対比して生まれていた議論とか対話とかがどんどん無くなっていく。音楽に付随するコミュニケーションがどんどん無くなっていくのは残念だよね。でも、クラブのような音楽の鳴っている現場で、また新しいコミュニケーションが生まれているのかもしれない。よりナマ(生)な何かを求めて人が集まっている」
~だからDJという現場にこだわり続けたのかな。
「そうだね。DJはそこでしか音楽を介した何かの実感を人と共有出来ないし、得られない」
取材・文・構成:サラーム海上 www.chez-salam.com


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